過去の受賞作品

第11回短編映画コンクール(2012)


グランプリ
『転校生』金井純一(埼玉県) / 19'58"
転校生 【作品解説】
中学生の容子は、些細なことがきっかけでクラスメイトから無視されてしまう。そんな折、ひとりの転校生リサがクラスにやってくる。リサは転校してきて早々「誰とも仲良くなれない」と言ってクラスメイトを突き放した。クラスに居場所がなかった容子は、そんなリサに強く惹かれリサを追いかけるようになる。不器用でぶつかり合い、それでも誰かとつながろうとする青春時代。誰もが経験したような未熟で純粋な友情を描いた。
【審査委員長 品評】
先ず二人のヒロインに魅かれた。転校生の方の「ついて来るなよ」という拒否のバリアを越えて、このところクラスメートから孤立している学級委員が執拗につけていき、ついに転校生の頑なな心を一旦は開くのだが何が原因か突然転校生の申し出で短い交流も閉じられ学級委員の方はこれまでになく傷つく。しかし、その原因がまたまた転校しなければならないことを知った相手が敢えて友情を封印したのだと知って一瞬安堵しながらも本当の哀しみを知るラスト。転校生の「ついてくるなよ」という科白のいじらしさ共々印象に残る佳作だ。
準グランプリ
『フィガロの告白』天野千尋(愛知県) / 20'00"
フィガロの告白 【作品解説】
夏休み。いつもの秘密基地に集まる、ヨネ、カゲやん、ナオヤ、岩さんの中学生男子4人組。エロトークで盛り上がり妄想を膨らませ、ついに好きな女子への告白大会を決行することに。果たして彼らの恋の行方は…?!苦くて甘い果実のような青春の1ページをお楽しみください。
【審査委員長 品評】
男子中学生四人組の卑近な生態を生き生きと描いている。互いの女子に対する思いが錯綜する様が多様な人物の恋心が錯綜する「フィガロの結婚」になぞらえられたのだろうか。途中四人組を咎め割り込んできた中年男がラストに登場する落ちも効いている。ただ、主人公の夢想の間に挟まれる黒みの部分はむしろ邪魔に思われた。無邪気な発想と工夫で作られているだけに、こぢんまりとした印象は免れない。
入賞
『カリカゾク』塩出太志(兵庫県) / 19'57"
カリカゾク 【作品解説】
親の心、子知らず。または子の心、親知らず。昔の人はなかなか上手いこといったもんだ。家族は私とお父さんとお母さんの3人。本当の家族のはずなのに、いつから仮の家族のようになってしまったんだろう。その原因はきっとお父さんにある。なんたって私は見てしまったのだから。いや、どうやらお母さんもなにやら怪しげな気がしてきた。これは私がどうにかしないといけない。本来あるべき家族の姿にしなくてはいけない。このままじゃ私は我慢できない!
【審査委員長 品評】
ストーリーは安直な出来合いでも、それをどう見せるかによって、それなりの作品になりえるかどうかという見本だ。とにかく人物のカリカチュアライズは相当に露骨である。特にヒロインの両親や母親の浮気相手となる男教師ら大人たちは。一方、ヒロインと父親の援助交際の相手となるヒロインの同級生は比較的普通に描かれる。そのことがかえってこの作品を弾けさせなかったとも言えるだろう。言い換えればヒロインが冒頭とラストで繰り返す「親は子の心知らず、子は親の心知らず」という言葉に端的に表れている常識的世界観がこの作品を軟弱にし結末はヒロインが鼻血を出して倒れるという程度の決着になったというわけだ。カリカチュアライズの方法で貫くには徹底的な風刺の精神、常識を突き破る構想力、そして失敗を恐れぬ覚悟が必要だ。
『Silent Love』長尾聖子(大阪府) / 13'33"
Silent Love 【作品解説】
エリーは憧れの出版社で働き始めたばかりの新入社員。一生懸命に働いているのだが上司には認めてもらえず恋愛も空回り。落ち込むエリーにさらに一大事が降りかかる!撮影はアメリカ・カリフォルニアで行ない、役者はハリウッド映画をめざす俳優の卵、クルーはInternational School of Motion Picturesの仲間たち。ハンディキャップを持ちながら奮闘する一人の女性の喜怒哀楽と成長を描いた作品です。エリーに共感できる人、そうでない人様々だと思いますが見て頂いた方の心に何か残すことができればと思ってます。
【審査委員長 品評】
たとえ短編たりともエンターテインメント足るに相応しいストーリーを作ろうとする意図はよし。短編が一つの発想あるいはアイデア、そして一つの挿話でも成り立ってしまうのに比べてやはり骨太ではある。だが、残念ながらストーリー展開に中身を詰め込み過ぎて解決が安易になってしまった。聾唖者であるヒロインは雇われた出版社の中でも障害者扱いされるのが関の山だが、ある日憤慨してその出版社とはもう契約しないと飛び出してきた作家を止まらせ、かつて彼がファンだった彼女に<自分の声がいつか聞こえますように>とサインしてくれたその言葉を頼りに自分は耳は聞こえずとも発声できるようになったと語る。すると、たちどころに作家は、そう言えば書いていても自分の声を聞けなくなって久しい、作家として堕していたと急きょ反省して、再契約が成るというクライマックスが余りにイージーゴーイング。それまで声を発せない障害者として自他共に扱い扱われたヒロインが大事に当って声を発し喋り出すのはルール違反とも言えるが、その衝撃力がもっと感動的なものに繋がったとすれば、許されると思う。その点、淡い三角関係の構図から発想されたストーリーに限界があったのではないだろうか。
入選
『CROSSING』井村 剛(大阪府) / 5'14"
CROSSING 【作品解説】
薄暗い部屋の窓から男が向かいの横断歩道を用心深く観察している。イカツイ風貌の視覚障がい者が横断歩道にやってきて信号待ちで立ち止まる。部屋の男はその男を待っていたのだ。急いでバッグから様々な道具を取り出して組み立て始める。そしていよいよ信号が青に変わった…道路を挟んで繰り広げられる「手に汗モノ」のハードボイルド調コメディ。
【審査委員長 品評】
勿体ぶった映画の中身は?大爆笑物となれば大手柄だが、せいぜいくすくす笑いか失笑か。横断歩道の前に現れた一見怪しげな盲人を対岸のビルの一角から見下ろす男ははたして何者か。まるで狙撃者のように部品を組み立てて見せたはいいが何とマイクの前で笛を吹くという仕掛けがミソ。観客の予想を裏切って面白がらせる趣向だが成功には程遠い。
『がらくた』たかひろや(埼玉県) / 19'48"
がらくた 【作品解説】
ふいに届いた父からの手紙。いつの間にか帰らなくなった実家。少しずつ慣れてきた東京の生活。帰りたいと思っていたわけじゃない。ただ、ちょっと気になっただけ。変わらない景色。変わらない友達。変わらない実家。変わらない父。その中にある確かな変化。それは、自分の中にも。。。少しだけ大人なった息子と少しだけ老けた父。そんな2人の静かな物語。
【審査委員長 品評】
タイトルの入れ方が間違っていると思う。轆轤が回り見事な手捌きで器が造形されていく。そこに「がらくた」はないだろうと思う。入れるなら、いい物ができた、取りに来い、という親父からの手紙。寡黙な職人肌の親父と、がらくたばかり作って苦労の割に稼ぎもないと家業を継ぐつもりは毛頭なく実家を離れて都会で働く息子との短い一夜の交流の中に、そこはかとない親子の情を描こうとしたわけだが淡泊過ぎると思う。タイトルのずれにも見られたように、もう一歩貪欲に人間関係の機微を穿つ描写力と構成力が欲しい。
『777号に乗って』井上博貴(福岡県) / 15'00"
777号に乗って 【作品解説】
娘・ユカを女手ひとつで育てている姉・サエコが、ユカの誕生会の日に新しい彼氏を連れて来た。弟のトオルは、男運のない姉が連れて来た新しい彼氏が「無職」であることを知り、にわかに受け入れられない。今度の彼氏は、姉、姪のユカとうまくやっていけるのかと心配であった…。そんなトオルの気持ちを察した彼氏は自分の思いを分ってもらおうと誠実に振る舞う。すると次第にトオルやユカに気持ちが通じはじめる。そしてユカは皆に祝ってもらった誕生日の夜にある夢を見る。それぞれの思いが交差する、ちょっぴりファンタジックな物語。
【審査委員長 品評】
愛する姪のために、お相手の定まらぬ姉の男附き合いに一喜一憂する青年の気持ちの揺れと、今度こそ大丈夫と思わせる展開で口当たりのいい作品を狙ったのだろうが、それ以上でも以下でもないというのはやはり物足りない。
『恋するネズミ』ひだか しんさく(宮崎県) / 13'49"
恋するネズミ 【作品解説】
チーズに恋したネズミの葛藤を描いたアニメーション作品です。
【審査委員長 品評】
面白い発想だ。主人公のネズミはチーズしか食わなくなった。だからチーズ獲得のためには盗みにも入る。官憲からは追われる身となる。匿ってくれる牝牛が登場する。だが取り締まりが厳しくなってチーズは底を突く。唯一、ネズミの恋してしまったチーズだけが残る。これだけは食べないとネズミは豪語したが、ひもじさは募る。牝牛は自らの乳でチーズを新たに作り始めたが間に合わない。もはや背に腹は代えられぬ。さあ、ここが勝負どころだ。作劇のポイントでもある。遂にネズミは恋人を齧った。だが、案に相違して何も変わらない。主人公も変わらなければ、齧られた恋人のチーズも変わらない。少々齧られて形が少し凹んだだけだ。その内、齧った凹みに今作成中の乳製品を塗り固めて足していくので、さらに変わらなくなる。まもなくチーズが出来上がって恋人を齧る必要もなくなったと思いきや、それらはチーズではなくバターに仕上がっていたという落ちがある。主人公はバターを吐き出す。しかも、恋人も今やほとんどバター化したというわけだ。じゃバターを売りに出しチーズを買えばいい、警戒も緩んだと牝牛。恋人の‘殆どバターさん’も誰かに塗られて食べられたいわ、ということになる。さて、話はできている。だがこの話に如何なる感興が湧くか。湧くならば値打ちはあった。湧かないなら・・・。問題は恋人を食っても何の変化も起こらないところにあると思う。
『新堀川の上で』山口 智(茨城県) / 15'00"
新堀川の上で 【作品解説】
名古屋市内を流れる汚れた川「新堀川」。東京から引越して来たばかりの少年圭介は、母親にその川で遊ぶ事を禁じられていた。その言いつけを破り川で遊んでいた圭介は謎の少年テンと出会うのだが彼は何故か大人を嫌い、子供たちには嫌われていた。テンとは一体何者なのか?第4回ショートストーリーなごやで佳作を受賞した「新堀川の上で」(作者:加藤陽一郎)を原作に映像化。
【審査委員長 品評】
川と川縁と橋の下という場所は日常と繋がっていながら、ちょっとした異空間となりえる場所である。祖父さんの家へ母親と一緒に移ってきた少年が天から降ってきたと語る不思議な少年に出会うのもその場所だ。転校生でもある主人公の少年が同級生達の少年少女と初めて公園で遊んでいるとき、その不思議な少年が現れる。この時点で、不思議な少年が同級生達には見えず、見えない影に喋りかける主人公を気味悪がって、主人公が同級生達に見限られてしまう、という筋書きもあったと思うのだが、本作は不思議な少年が汚い存在として忌避され、その友達の主人公も置き去りにされるという具合だ。その後の成り行きを見ると、それはどちらであっても大差なかったように見える。ということは、逆に言えば、ラストに至る展開がぎりぎりに絞られていくだけの緻密さを欠いているということでもある。最後の少年二人の誓いは、いつまでも少年の心、純なる想像力を失うまいという映画青年たちの心か。
『新生活の詩』村上 祐介(大阪府) / 18'10"
新生活の詩 【作品解説】
失恋の痛手を乗り越えるべく彼との思い出の品のすべてを処分する千春。誰かに甘えたいと思いながら、いろいろな経験を経て、強くなってしまった自分。そんな自分自身と気持ちとのギャップを感じながら、こんな時代だからこそ千春は希望の歌を口ずさむのだった・・・。今まで大事にしてきた台詞感やテンポ感、日常感は踏まえつつ、初のコメディ調で皆様に楽しんで頂ける作品になったのではと思っております。新しい生活へのワクワク感を前向きな作品として見てくれた人が笑顔になれるような作品を目指しました。
【審査委員長 品評】
同棲を解消したばかりの女の寂寥感に始まり、引越しをして新生活に入ろうとするまでを描いたスケッチだが、途中描かれる女心の揺れが浅薄で一瞬たりとヒロインの心根に共鳴しその生き方に寄り添うことができないのが残念だ。


全国より93作品の応募がありました
審査委員長
伊藤俊也(映画監督)
特別審査委員
工藤雅典(映画監督)
椿原久平(映画監督)
冨永憲治(映画監督)
     


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