準グランプリ

『干し柿』 四季 涼
【 審査員長品評 】
庭木の整理を頼んだ中年の奥さんとその仕事を引き受けた若い庭師の話。リボンを付けた木を残し、後はバッサリ切ってくださいねという話だった。大方仕事が片付いて一服という段になって、奥さんは冷やした干し柿で若い庭師を接待する。話は弾んで、残した木はすべて夫が植えたもの、特に柿の木には思い出深い因縁のある事、そして、柿の実が生ったその年、柿を食べることもなく夫は既に亡くなっていたことが知らされた。旦那が亡くなっていたと聞いて驚く若い庭師。今更のように、夫の形見である手植えの木の奥さんにとっての大事さを痛感する。この時、二人の間にまるで青天の霹靂の如く、リボンを付けた木が残されるべき木であったのか、リボンを付けなかった木が残されるべき木であったのか、分からなくなる恐慌が襲った。こういう勘違い、あるいは錯覚は、我々の日常でもよく起ることだ。この一瞬の描写がこの作品の勘所であった。だが、リボンを結んだ木は残してくれと云われた直後に庭師が当のリボンを結んだ木を伐り始めていることを観客は知っている。だから、後で大変なことになると予想もしている。当然、ひと騒動起きることもすでに予期されている。結果は、奥さんが間違った指示を出していて、事なきを得た、つまりは大事な木が残されていてめでたしめでたしとなった。面白いアイデアであっただけに、その一瞬に賭けた描写の効果が半減してしまったのが惜しまれる。それは、夫の死が逸早く観客には察知できていて、庭師のようには驚かず、奥さんの嘆きが少々しらけるのに似ている。