【最終審査を終えて】
今回は、短編映画コンクールとしては、20回目に当たる、言わば記念の年である。
だから、グランプリを出したかった。だが、これまでのグランプリ作品、準グランプリ作品の水準と比較検討して、「干し柿」を準グランプリにとどめた。
また、一般審査員賞を獲得した「誰も言わない」について、一言言及しなければならない。
審査の手順としては、一般審査員が選んだ21本の作品の中から、特別審査員が入選作品10本を選び、その10本中から、最終審査として、審査委員長である私がグランプリ以下準グランプリ、入賞作品等を選ぶわけである。
「誰も言わない」はその10作品に残らなかった。したがって、手順としてはこれが私に届くはずはなかった。だが、一般審査員賞は私にも関心があるところなので、10本の入選作とは別に送ってもらい見た。そして、私はある種の戸惑いを覚えた。私の目には、10作品の入選作に入ってもおかしくない水準の作品であったからだ。
ヒロインは、自分の祖母の死をきっかけに、父の両親である祖父と祖母の戦時中の別れ、出征する祖父とそれを見送る祖母の間に、お守り袋を渡すだけが精一杯で言葉が交わされなかった、誰もが自分の本当の思いを語れなかった戦時中を思い、今もクラス仲間のいじめを見つつも誰も云わない状況を切り裂くべく、自殺しかけているクラスメートの所に呼び掛けるために向かうという話だ。
おそらく「誰も言わない」を戦時下と今日に繋ぐ発想が余りに短絡的に過ぎると一蹴されたのだろうし、あの時点とこの時点を単純に同一視する情緒的態度こそ、日本人一般の戦争責任に通じるという批判さえ可能だが、この作品が一般審査員賞に選ばれていたことに正直安堵する気持ちがあったことをここに記しておきたい。
審査員長 伊藤俊也