入選

『吉川の通夜』 草苅 勲
【 審査員長品評 】
親友、それも中年になりかかる身としては、共に人生のギアを入れ替えて相進もうと思っていた矢先の相棒の死は、何とも曰く言い難く辛い。大体が、儀式というものは、個人的な感情とはそぐわないもの。ましてや、コロナ禍のもとでの、オンライン葬式。この場に及んでも,親戚の叔父さんの挨拶というのは余計しらけるばかりだし、益々受け止められない主人公というわけだ。そのやるせなさを描くには、オンライン通夜が使えると作者は思ったのだろう。だが、これだけでやるせなさを描いても、もう一つ、物足りなさを作者は感じたのであろう。その挙句が、最後に用意してあった、喪主から送られてきた清めの塩を主人公のアタマに振りかけさせるというラストショットに通じてしまった、と云うべきだろう。