過去の受賞作品

第13回短編映画コンクール(2014)


グランプリ
『峠』船谷純矢(兵庫県) / 18'21"
【作品解説】

【審査委員長 品評】
セリフは殆どなく、というより夫婦の間に会話はなく、決まりきった一組の夫婦の日常が綴られる。その中心は朝夕の妻による夫の送迎だ。山中の家から山を上り下って小駅まで。変化を呼ぶのは、いつも使っているミニバンがエンジンから煙を吐いたためである。そのため車庫の中で長く眠らされていた旧型のスポーツカータイプの車を出してくる。運転席に座布団を持ち込んだりその対応策がつづられるが、問題はエンジンのかかり具合の悪さだ。最初は、ほとんどノロノロ運転だ。ところが、いつも割烹着を離さぬ太っちょのカミさんがどんどんこの車の運転に習熟していき、17時45分に駅に着くために30分前には出て行ったものが、日を重ねるにつれ、後は10分前に発動すれば充分間に合うようになるという具合だ。この間の変化が巧みな省略法で、しかも運転中の夫と妻、それぞれの表情に生かされてユーモラスに展開する。山場もある。偶々、TVニュース番組の新橋駅頭での取材を受けて、いつもより遅く帰着した夫が、待っていた妻に17時55分から始まるニュースを見たいと言って急がせる場面。車は猛スピードで走るは走る。遂には夫が悲鳴を上げるまでに。ところが指を抜いた軍手でハンドルを握るカミさんはどこ吹く風。ギアチェンジやハンドル捌きも鮮やかにTV開始に間に合わせるのだ。ところが二人それぞれの期待に反して夫の所はカットされていた。奥さんに一言、という質問に対して彼はいったい何と答えていたのだろう。意外や、かあちゃん、いつも送り迎え有難う、などとこの無愛想な亭主にして答えていたのかもしれない。それを見せないところが上手い。そして、仮ナンバーの旧車を捨てて、新しく選ばれたのがオートバイである。そして、今や亭主を送った後、颯爽とカミさんが乗りつけるのは、景勝地のオートバイ族が屯する場所だった。今や一人前のライダー風にカミさんはサングラスなんかしちゃってる。知らぬは亭主ばかりなり、カミさんは着実に成長しているのだ。坦々と日常をたどりながら、女という存在の懐の深さを描き切って、なお作者たちは澄まし顔でいる。これぞ褒められるべき作家魂だと思う。
準グランプリ
『ゼンマイシキ夫婦』森ガキ侑大(広島県) / 12'23"
【作品解説】
平凡な毎日をすごす夫婦。二人の愛は少し冷めきっていた。二人の背中にはゼンマイがついている。二人だけの世界。決して自分では回す事ができない。お互い相手の背中のゼンマイを回しながら生活をしていた。妻のゆみは、ふとした生活の中で自分に対する夫の愛に不信感を覚える。お互いのゼンマイが回し回され本当の愛がわからなくなる妻。そして夫婦の距離がずれていく。
【審査委員長 品評】
タイトルにゼンマイシキとあるので、あるいはと思っていたら、その通り若い夫婦の背中にゼンマイが付いていた。さりげない日常の描写に始まり、出勤する夫が背中を見せて靴を履くとき、妻が夫の背中のゼンマイを巻いて送り出す。その夜、久しぶりに外食をした二人、串焼きを食べながら家路をたどるが、ふと串焼きを落して思わずしゃがみこむ妻のゼンマイを巻く夫の手つきはやさしさそのものだ。だが、期待に反して先に眠り込んでしまった夫に、妻は充分なゼンマイを巻いてやらず、それは翌朝てきめんに顕われた。牛乳を飲む途中で夫はゼンマイが切れ、牛乳はそのまま床に零れ落ちる。それが昨晩充分にゼンマイを巻いてやらなかった妻自身の反省へとは向かわず、むしろ夫への不快感として残り、出勤前のゼンマイも巻かずに送り出してしまう。夜になって遅くなってもまだ帰宅しない夫を案じる妻、ついに心配が高じて表に飛び出した。走る妻。雨も降ってきた。そして、ようやく路上で動きを止めたままの夫に遭遇する。ゼンマイが切れていたのだ。雨の中、向かい合う二人。夫の方へ動き出そうとした瞬間、妻のゼンマイも切れてしまう。
ことほどさように、夫婦の日常の機微が妻を中心に、特に感情の流れに沿ってゼンマイを巻く、あるいは巻かない、という行為に端的に表現される。その一見単純化された仕掛けを超えて説得力を獲得しているのは、まさに演出力である。そして、妻を演じた女優が見事に応えた。女優賞ものだ。飛び出していくまでの表現が効いて、動かぬ夫と向き合う雨の中のシーンは、見事なラブシーンと化した。まるで石化した恋人同士の神話を思わせるが、仕掛けはまだ一つ残されていた。動きを止めたと思われた夫のゼンマイが微かに動いて…映画は終わる。
入賞
『彼女の告白ランキング』上田慎一郎(滋賀県) / 19'16"
【作品解説】
ある日、男は彼女にプロポーズする。すんなり承諾を貰えると思っていた男だが、彼女に「告白したい事が17個ある」と告げられる。果たして男は彼女の告白を全て受け止め、結婚を決める事が出来るのか!?ノンストップ・フルスピード・フルテンションコメディ!
【審査委員長 品評】
同棲している男女の間で男が求婚し、女が自分の告白の後でもなお求婚の意思が変わらないなら受けると答えて、ランキング付された告白17ヶ条を出してくるという笑劇である。ちなみに、ランキング17位が「浮気をしていた」で男の度肝を抜かす。
告白ランキング1位、パネル最後の「試験合格」までの展開は、ほとんどグランプリものである。もちろん、この後が勝負なのだ。あなたは彼女のとんでもない数々の告白によくぞ耐えました、ハイ合格です、というオチで足りないことは当然である。正当にも作者もその先を求めた。しかし、作者の選んだ道は地球防衛軍戦士に合格というさらなる漫画チックな飛躍だった。正直言って興ざめした。いや、かくの如き展開の先にはこれしかないのかもしれない。だから、喝采する人も多いかもしれない。だが、筆者はもう少し欲張りたい。笑劇であればこそ、もう一つ捻った着地の仕方があるのではないか。
『Grandpa』藤澤浩士 / 15'00"
【作品解説】

【審査委員長 品評】
最初のシーンが後々まで効いている。クリーニングコーナーのベンチでうたた寝をしているグランパ。隣に座っている幼い孫が時間を持て余し、近くのゲーム機械で遊びたがった。両親には禁じられている。グランパは許す。孫は嬉々として夢中だ。
時は、十年余経って、孫はほとんどゲーム中毒になっている。甘やかしたグランパのせい?それはともかく、今や半ボケの老人と化したグランパを、若者は見下している。だから、小遣いをせびりにグランパの部屋に行き、先日遣ったばかりではないかと疑うグランパを騙し二重取りしたばかりか、好きなレコードを聞かす間にグランパが眠ってしまうと、小箱の中のお札をもくすねてくる。だが、その箱の金のことで、母親に文句を言い、逆に父親に窘(たしな)められるグランパを見て、さすがに良心の呵責を覚えるのだ。そして、ついにグランパが両親の手に余り入院させられ、しかも自分の好きなレコードを孫が掛けてくれたことに感謝するグランパを見て、彼は心からの懺悔をすることになる。グランパの亡き後、すっかり改心した若者は今や老人ホームへ自分のゲームソフトを寄付するという。こう書きつけてみると、めでたし、めでたしの、いい子ちゃんが作った常識的な作品と見られがちだが、特にグランパと若者(その幼年期も)がきめ細かく勘所を押さえた演技をしているので説得力がある。どこにでもありそうな話だが、決して凡庸なだけでは作られない作品の密度を買った。
『ヲナリ』後藤聡(栃木県) / 19'51"
【作品解説】

【審査委員長 品評】
南海の離島に漂着した青年がかつてこの島で死んだ日本兵の亡霊を追ってその遺品を見つけることから、その軍隊手帳のメモに書かれた事実、この島には水もなく雨が降らなければ幾日も生きられないことを知るが、同時に琉球に伝わるヲナリ神の記述にも触れることが出来た。ヲナリ神とは、兄を霊的に守護すると考えられた妹(ヲナリ)を神格化したものである。そして、この青年を病床にある妹が蝶の姿をとって導き、死の島から脱出させてくれるという物語だ。だが発想と展開がやや陳腐だ。現代の物語として提示するなら、ヲナリ神といえど、その関係性において単純に過ぎはしないか。それが単なる救い主に終わっては、淡白な夢物語としか言いようがないではないか。とはいえ、「おもろそうし」に想を得て一篇のファンタジーを描こうと、持てる秘術を尽くしているのは見て取れる。その創作態度を揺るぎないものにするならば、可能性は自ずと拡がるであろう。
入選
『あいかたwho』吉冨友也(鹿児島県) / 19'08"
【作品解説】
専業主婦の晴子は元漫才師。かつて人気を集め、まさにこれからという時に自ら言い出して、突然コンビを解散した過去を持つ。現在の夫には日常の些細なことで不満を募らせている日々。唯一の楽しみは「気分転換」と称するネタ作りだった。買い物帰りに近所の公園でひょっこり再会したのが、かつてのあいかた風子。マネージャーの山下を従えピン芸人として活動する昨今だが、仕事にはあまり恵まれてはいない様子。久しぶりに屈託のないひとときを過ごす二人。かつての熱烈なファンでもあった山下は解散の真相を聞き出す。風子に促されて淡々と語り始めた晴子。今や二人の間には、こだわりはなさそうに思えた山下は大胆な提案をするのだった。「ふうはるコンビを復活させましょう!」初めは笑って取り合おうとしなかったが、次第に二人の胸中は複雑に揺れ始めるのだった・・・。
【審査委員長 品評】
人生の相方(夫)とまたまた口げんかして彼を置いてきぼりにしてきた女(晴子)が、かつてコンビだった漫才の相方(風子)とそのマネージャーに出会って、再びコンビを組んで出直すのかどうなのかという話である。ピン(一人)で勝負すると言っても、老人ホームの司会程度の仕事しか回されてこない風子のマネージャーはそれを望むが、結局はコンビ再結成とはならず、ひとときの友情の交歓に終わるというエピソードだ。だが、この素材で勝負するなら、一度はこのコンビの漫才を過去の漫才シーンの回想風(それすらなかったが)ではなく、その場の成り行きから即興的に展開させて見せてほしい。それが成功すれば、映画もまた躍動するだろう。
『道玄坂事変』真田幹也(東京都) / 5'21"
【作品解説】
東京、渋谷の道玄坂。そこでは連日連夜、沢山の男女のドラマが生まれている。今夜も一人の男が女を口説き始める。「言葉・言葉・届く言葉…」行き詰まった男が女に向けて放った言葉とは…。
【審査委員長 品評】
バーのカウンターで終電に間に合わないからと帰りを急ぐ女を言葉巧みに引き留めようとする男、と見せて実はその男の「説得力ある」言葉を探している片隅の作家がいるというのがミソである。オーバーランした言葉で男女の掛け合いを工夫したり、オチも用意されている。だが、このオチがオチというほどに作用して来ない。「事変」というタイトルも、あえて小事をいう逆説を狙ったのか知れないが、空振りに終わっている。
『陽だまりの花』相馬寿樹(栃木県) / 14'00"
【作品解説】

【審査委員長 品評】
かつて怪我をして入院していながら、本物の花火が見たいと駄々をこね、そのために兄を事故死させてしまった主人公の若い男が、再び巡ってきた田舎での花火の夜、少年期そのままの兄と遭遇し、その事故の顛末を辿り返すという、半ば幻想風な話である。そして、男は今や救命センターの医者として、どんな状況でも急患は必ず受け容れることを亡き兄への償いとして誓っているという次第だ。だが、そうした因果を結ぶストーリーを作ろうとするあまり、兄と弟の切ないまでのエピソードの襞々、兄の思い残したもの、弟の取り返しのつかない思い等々、細密に描くべき大事なところをなおざりにしてしまっているように思われる。
『An American Piano』Paul Leeming(Australia) / 20'00"
【作品解説】

【審査委員長 品評】
実話に基づくとあるように、日本人の一少女の弾くピアノの旋律が、戦時下日本で捕虜になった若き米兵の心を慰めた一幕があったということがいい話でないわけがない。そして、鬼畜米英とまで称した敵国のメロディを弾くことに、日本全体が寛容でなかったときに、それを暗黙裡に認める町内会長がいたということも記憶されていい。まして、日本の敗戦後、居丈高に振る舞うどころか少女に感謝の気持ちを伝える元捕虜の青年の姿を映画の中に記しておくことも意味があろう。だが、常に戦争は、そうした人倫の道を裏切り、逸脱していくものだ。その対立項を外したところに、どこまで感動が育つかということだ。少なくとも筆者は胸が騒(ざわ)めかなかった。
『LR Lost Road』松本卓也(東京都) / 20'00"
【作品解説】

【審査委員長 品評】
四人の若い女性によるパンクロックグループの全国ツアー(?)のロードムービー?と興味を持ったが、たちまち分裂状態になり、一人ずつ車から降りていく気配に、筋書きが読めてしまった。先が読めてしまう、逆に言えば先が読まれてしまうというのも、必ずしも悪いことではない。その道筋を時には外れ、裏切りを幾重にも重ねて、あらためて本道に戻れば、あらかじめ想定されていた通りの結果が出ようと、ハラハラドキドキのハッピーエンドと同じような効果はある。だが、一人ずつ降りていく理由(仕掛け)が貧弱だから、四人の、しかも母校での再結集が、いささかも感動となって響いてこないのである。
審査員特別賞
『ゼンマイシキ夫婦』大谷英子さん
  今回、作品の中で演技が素晴らしかった。


全国より76作品の応募がありました
審査委員長
伊藤俊也(映画監督)
特別審査委員
工藤雅典(映画監督)
椿原久平(映画監督)
冨永憲治(映画監督)


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